その直後、最近たまにくる胸の痛みが彼を襲った。
心配する先生に、いじめとはまた別の痛みだと伝えようとした時、不意におでことおでこをくっつけて先生は体温を計ろうとしてきた。
「そうね・・・ちょっと熱っぽいみたい」
全く他意はない様子でそう言うと、今日は帰りなさいと諭した。
その時、彼女を慕う女子生徒二人が入ってきて、二人きりの癒しの時間は終わってしまった。
鞄を手に音楽室を出ていく彼に先生は
「ちゃんと病院行くんだよ」
と、胸を襲う痛みを心配して忠告してくれ、彼も会釈して部屋を出た。
土井は診察の順番を待っている間も、胸の痛みに襲われていた。
頻度を増してきた締め付けるような痛みは恋のせいなどではなく、何かの病気だろうことは本人が一番よく分かっていた。
「土井さーん。土井翔太さーん」
「はい・・・」
名前を呼ばれて診察室に入った。
彼は告げられた病名に絶句した。
「ご家族に連絡して都心の大きな病院に行った方がいい。君が罹っている病気は、細胞硬化症という」
細胞硬化症。
厚意で人を助けたのに、その結果が地獄のようないじめの日々。
誰も助けてくれず、自分で改善する力も勇気もない。
でも、柚希先生だけは慰めてくれた。
少しいいことがあった矢先に、今まで以上に絶望しなければならない状況になった土井翔太。
しかしこの病気に一時苦しめられるが、その後で全ての嫌なことを帳消しにして余りあるほどの恩恵を授けてくれるとは、今の彼は知る由もなかった。
考察・感想
土井翔太編が始まった。
汐音と呼ばれて名前を与えられたクラスメイトが出て来たが、この後で特にストーリーに絡んでくることはなかった。
また出す機会を用意しているのか、ノリで出したのかは分からない。
そしていじめっ子のエリカが彼のハーレム学園に参加するようなこともなかった。
さすがのカレンでも、いじめっ子をメイティング候補にするようなことはしないようだ。それに、メイティングはあくまで双方の合意が前提なので、エリカが今後登場することはないだろう。