目が覚めると、絵理沙が最初に見えた。
と思ったら、やはり似ているだけで違う女性だった。
「おはようございます、水原様」などと、絵理沙が言うはずもなかった。
そこはカプセルの中ではなく、病室のベッドの上だった。
女性に西暦を訊ねると「2045年です」と答えてくれたので、本当に5年経っているのだと思った。
シャワーを浴びてからメディカルチェックを受けると、細胞硬化症は完治していますと診断された。
それでようやく安心できたので「高木先生にもお礼を言いたいんですが」と、診断してくれた女医に訊くと「先生はもういません」と返された。
何か病院の事情か退職したのか分からないが、あまり詮索するのは止めておいた。
「家族に会いたいんですが、今日は来てないでしょうか?」と訊ねた時、最初に見た女性が
「あなたが眠っている間に何があったかご説明しますので、一緒に来ていただけますか」と言うので、断る理由もなく従った。
別の大柄な女性二人に挟まれる形で車に乗り込み、どこかに向けて走り出した。
そこで女性は自己紹介をし始めた。
「申し送れました。あなたの専属担当官の周防美来と申します。以後、水原様の身の回りのお世話や外界とのコンタクトは全て私が担当させていただきます」
そう紹介されても、さっき完治したばかりだと言われたので、何のことか分からない。
「分かるように説明してもらえますか?」と訊くと「かしこまりました」と素直に応じてくれた。
「4年ほど前、この世界はMKウイルスというウイルスが蔓延しました。それに感染した人間は皮膚が紫色になり、吐血し、3日で死に至ります。
感染力は強く、空気感染をするため、瞬く間に世界中に広まりました。そしてまだワクチンも開発されておりません」
そう言い終わった後、美来は車のマジックミラーを透過させて外が見えるようにした。
建物などの景色は変わっていなくても、薄汚れた難民が歩き、街は荒れ果てていた。
そこで再び、美来は説明の続きを話し始めた。
「世界の人口は半減し、食糧供給を始め様々な科学技術を維持することが困難になっています」と。
怜人は信じられず、思わず外に飛び出した。
すっかり街の景色が変わって見え、今どこにいるのか、自分の家の方角はどっちなのかも分からない。
近くにいた女性に尋ねようとすると、悲鳴をあげて逃げられてしまった。
すると、その悲鳴のせいなのか、周りの女性たちも怜人のことをじろじろ見始める。
そこでようやく、まだ一度も見ていないことに気付いた。
言い換えれば、目覚めてからまだ片方しか見ていなかった。
追いかけてきた美来が「お気づきのようですね」と声をかけてきた。
怜人は気付いたばかりの疑問を率直に訊いた。
「男の人たちはどこへ行ってしまったんだ?」
美来は今までの説明を前置きとして、真実を話し出す。
「Male Killerウイルス。
通称男殺しウイルスは、その名の通り男性にしか感染しません。この世界は女性しかいなくなってしまったのです。
ごく一部の男性がコールドスリープで生き長らえているだけで、世界の99.9%の男性が死滅しました」
「じゃあ、なんで俺は生きてるんだよ!?」と、彼は信じたくない思いで疑問をぶつけた。
それには「細胞硬化症に感染し、治癒したことに関係があると思われますが、因果関係は解明しておられません。しかし、今もこうしてあなたが生きていることが何よりの証拠」だと返される。
さらに美来は続ける。
「この地球上で細胞硬化症を完治させ、活動可能な男性はあなたを含め5人しかおりません。つまりあなたは地球上で最も貴重な資源なのです」と。
その直後、怜人に気付いた女が襲いかかってきて彼の腕に纏わりついてきた。
しかし、一緒に乗ってきた大柄な女性がスタンガンで躊躇なく気絶させる。
美来はおもむろに膝をついて、周りの女たちを示しながら、とんでもないことを言い出した。
「この世界に残された女性たちと子作りしていただきたいのです」
考察・感想
ジャンププラスで話題沸騰中のSFハーレム漫画の第1話。
世紀末ではないが、荒廃しつつある世界設定で、それは民度が低いからとかではなく、科学技術を維持する技術者や管理者が、単純に半分死んでしまったからによるもの。
水原家の両親や龍のフルネームなど、細かいところは明かされていないが、ストーリー上、なんら問題はなさそうだ。
それと、怜人がスリープ直前にいた待合室には、あの火野恭司らしき人物もいる。
おそらく間違いないと思う。
美来と絵理沙が似ているのは、上層部があてがっただけなのか、それとも二人繋がりがあるのかは、はっきりしていない。