終末のハーレム3巻18話
【一条奈都】
「おはようございます」
「!・・・おはよう」
隣のベッドから挨拶をしてくる一条を見て、昨夜から相部屋になったことを土井は思い出した。
もしかして、ゆず先生の部屋に毎晩行っていたせいで、監視役として1週間交代なんてことになったのかと心配になる。
彼がそんな風に疑っているとは知らず、一条は笑顔のまま着替えるところも見続けて来るので、さすがに
「ちょっとそっち向いててもらっていい?」
と、わざわざ言わなければならなかった。
土井が着替え終わっても、一条は全く動こうとしない。
授業に遅れるよ?と声をかけると、もじもじして恥ずかしそうに、お願いことがありますと言い出す。
「着替えを手伝って欲しいんです・・・」と。
驚く土井に、彼女は続けて言う。
「実家ではずっとお手伝いさんに着替えさせてもらってて・・・学校の寮に入ってからは自分でやろうとしたんですけど、すごい時間がかかっちゃって・・・
だから、同じ部屋の子に手伝ってもらってたんです」
本当に甘やかされて育ったお嬢様なんだと土井は実感した。
彼女が自分の不甲斐なさに泣きそうになってきたので、彼は慌てて「家の事情なら仕方ないよ!手伝うよ!」と言ってなだめた。
「・・・手、上げて・・・」
かすかに手が胸に触れて
「あっ」
と声を漏らす一条。
土井は理性を保とうと必死になり、ゆず先生を思い出そうとする。
彼女がベッドに手をつき、少しお尻を上げて脱がせやすい体勢になる。
彼はできるだけ見ないようにするが、鼓動はどんどん速くなっていた。
すると、捲れたシャツの隙間から、腰の辺りに傷痕があるのが見えた。
彼は見てはいけないものを見たような気がして、それには触れずに着替えに集中した。
土井はいつものように、カレンと昼食を摂っていた。
朝のことを話すと、笑いながら同情してくれた。
「一条家は歴史ある古い家ですからね。他とはちょっと違うんですよ」
「まさか着替えもできないなんて、先が思いやられるよ」
冗談めかして笑い話にしたかったが、そうもいかないほど驚いて土井は理性を保つのに疲れていた。
「奈都さんにとっては、他人に裸を見られるのも普通のことですから、見られた後でもケロっとしてたでしょ?」
「なんか・・・僕の方が意識しちゃって、学校では喋ってない」
と、逆に照れて距離を置いていることを打ち明ける土井。
するとカレンは、悪戯心半分担当官としての思惑半分に一つ提案をした。
「お風呂の時も着替えさせてあげたらどうです?」と。
思わぬ言葉に彼が吹き出したもので汚れたカレンは、顔を洗いに行かなければならなくなった。
そこに柊が通りかかったので、土井は呼びとめた。
こっそり耳打ちして、一条がお風呂の時どうしていたのか訊いてみたら、彼女はいきなり大声で
「土井ちん!なっつんとお風呂入りたいのー!」
と、騒ぎ出した。
一瞬周りの女子たちがザワっとするが、すぐに彼が否定し、柊も冗談だと言って、普段はどうしていたかちゃんと教えてくれたので、お風呂についての心配はなくなって、ホッと胸を撫で下ろした。
それにしても、女子とこんなにも自然に話せることが、今でも信じられないくらいだった。
その日の夜。
部屋で一人の間に、ゆず先生に連絡をして一条のことを話していた。
一条さんらしいわねと笑いながら、でもあそこの家は色々事情があるから手伝ってあげてねと、教育者らしく振舞う先生。
土井はそのことについて異論はなかった。
でも、先生に会えないことが引っかかっていた。
「今晩、先生のとこに行ってもいいですか?」
「ごめんね。今日もちょっと無理なの」
と、あっさり断ってくるので、
「・・・僕のこと、避けてない?」
と、訊かずにはいられなかった。
先生はすぐに否定してくれるが、やはり自分以外の女子と相部屋になっていることを怒っているのだろうと思って言い訳しようとすると、先生は躊躇いがちに
「女の人の体調的なこと・・・分かるでしょ?」
と、諭してきた。
それなら自分には何も言えないと思って、土井は自分勝手に疑ったことを謝った。
先生も「不安にさせちゃってごめんなさい」と謝ってくれたものの、他の女の子とも仲良くしないとダメよと、先生としての立場で指導しようとする。
土井は
「先生さえいてくれれば・・・」
と、一途であることを伝えるが
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私とだけ仲よくしてたら、私が女の子たちの目の敵にされちゃうわ」と苦笑いを漏らした。
先生はそんな風に心配するが、彼はそこまで女の子たちに執着されているとは思っていなかった。
一条が戻ってきて、昨日と同じように横のベッドに入った。
しかし土井は、あの時一条が太ももをつねってきたのは、自分を好きだから嫉妬されたのかも知れないと妄想して、余計に眠れなくなっていた。
その時、一条が声をかえてきた。
「一緒に寝てもいいですか?本当は、誰かと一緒じゃないと眠れないんです」
そう言われて、彼はすぐに端に詰めた。
体温が伝わってくるくらいの距離に近づいた二人。
「土井さんって優しいですよね」
そう彼女は話し始めた。
「今朝、小さい頃にできたお尻の傷・・・なかなか消えなくて気にしているんですけど、それを見ても何も言わずにいてくれたから」
土井は何も返せず、次の言葉を待った。
「実は、高校を卒業したら、親の事業のために20歳も上の人と結婚する予定だったんです。
でも、その人も父もMKウイルスで亡くなってしまいました。
なのに、ウイルスが蔓延して良かったって思ってる私は、悪い女なんです。
だって、今こうして土井さんと一緒にいられるから・・・
初めて会った時から好きでした・・・」
もしかしてと思った通りになり、土井は生唾を喉の奥に流しこんだ。