終末のハーレム2巻12話
【ありふれた光景】

まだMKウイルスが世界に広がる前の2040年某所。

 

労働から解放されたこの時代、教育機関もかなり数を減らしていたが、一部の高校や大学は世界を動かすエリートを育てるためにその役割を果たしていた。

 

もちろん、人が集まればそこにカーストができてしまうのはいつの時代も変わらなかった。

 

 

ある高校のトイレの中。

アイドルが踊って歌っている映像を流しながら、不良グループが少年を取り囲んでいじめていた。
終末のハーレム

 

 

「早くしろよドジイ。これ見ていつもシコってんだろ?この声優・・・なんだっけ名前?」

「Q’sの桐原ちなみ」

いじめ仲間がそれに答え、おもしろくもないのにバカ笑いして盛り上がる。

 

ただ一人混ざる女子がここぞとばかりに土井を見下し、彼はそれに心の中で反発するしかできなかった。
終末のハーレム

 

 

「早くオナニーしろよ!何回言わせるんだよ」

「む・・・むりだよ、そんなの」

と、窺うように卑屈に頬を歪ませると、容赦なく蹴りが飛んできた。
終末のハーレム

 

理不尽な暴力はエスカレートし、エリカと呼ばれたギャルが吸っていたタバコを、いじめっ子は土井の太ももに押し付け、悲鳴がトイレの中に響いた。
終末のハーレム

 

 

ズボンはびしょびしょ、顔に痣を作った彼が廊下を歩くと、生徒たちは関わり合いにならないように避けるも、心無い言葉を吐くのは忘れなかった。
終末のハーレム

 

「汐音ちゃん、あれ・・・」

「かわいそー」

と、クラスメイトの女子も彼が酷いいじめを受けているのを知っていながら、全く興味がないのを隠そうともしていていない。
終末のハーレム

 

 

彼が高松たちに目を付けられるようになったのは、先にいじめられていたクラスメイトの男子を助けようとしたからだった。

 

同じアイドルグループが好きな繋がりで仲良くなりかけていた男子を、土井は勇気を出して助けようとした。

 

しかし、標的が彼に移ると、男子は仲良くなろうと自分から話しかけたのをなかったことのようにして、多くの傍観者の一人になったのだった。

 

 

廊下で擦れ違っても、気まずそうに視線を逸らす男子。

「へっ、バカみてー」
終末のハーレム

 

土井は、そうやって心の中で吐き出すことしかできなかった。

 

 

学校にいる間、心が休まるのは羽生柚希先生がいる音楽室の中だけだった。

 

黙ってピアノを爪弾いていると、先生は心地よさそうに耳を傾けてくれる。
終末のハーレム

 

ただ、その日の土井の様子がおかしいことに気付き、先生は気になって訊ねた。

 

「何かあった?先生で良かったら聞くよ」

「・・・先生。僕の最近のあだ名知ってます?・・・ドジイですよ。鈍臭くて白髪が多いから、ドジなジジイでドジイです」

「・・・ごめんね。先生・・・なんて言ったらいいのか分からなくて」
終末のハーレム

 

彼女はまさかそんな答えが帰ってくるとは思わなくて、咄嗟にいい慰めの言葉が思いつかずに正直にそう答えた。

 

ただ、その後にもう一言、正直な思いを伝えた。

「でもね、分かってることもあるよ。土井くんは鈍臭くなんてない。賢くて強い子だと思う」
終末のハーレム

 

土井もまさかそんなことを言ってくれるとは思わず、一瞬先生の目を見つめた後、サッと逸らしてその言葉を否定した。