終末のハーレム3巻20話
【変化】
怜人が目を覚ますと、また技術長官に拘束された時と同じように、どこか薄暗い部屋の中で椅子に座らされて身動きできなくされていた。
暗がりから近づいてくる二人の女性がいた。
それもあの時と同じように一糸纏わぬ裸の二人は、美来と朱音だった。
「水原様・・・」
「怜人・・・」
美来は初日の夜以来の裸を彼に晒して、頬を染めて彼を見上げている。
朱音はいつものように豪快に誘惑してこようとせず、しおらしく上目遣いで見つめている。
どうしてこんな状況になっているのか分からないままの彼の肌に舌を這わせていく。
「や・・・!やめて下さい!」
彼が拒絶するのも聞かず、発情した動物のように欲望のままに動く二人。
美来が彼の上に跨り、
「メイティングしましょう」
と、切羽詰った様子で誘う。
拒絶する声は途切れていき、彼は抗う術を失っていった。
再び目を覚ますと、そこは見慣れたベッドの上だった。
両隣には寝息を立てている朱音と翠がいて、それが逆に安心感を感じさせてくれる。
怜人はそっとシーツを捲って股間が濡れていないか確かめてみると、そこまで粗相はしてなかったようで、安堵の溜息を漏らした。
テレビに、「今日の水原怜人さん」という番組が流れ出した。
「世界宣言以来、水原さんはMKウイルスの特効薬開発のために研究に勤しんでいます。
水原さんは夕食にカレーを召し上がりました。
好きなカレーはチキンカレーだそうです」
怜人のなんてことのない日常が紹介されていくワンコーナー。
続いて、彼のイメージを街の人にインタビューして聞いていくシーンに変わる。
「息子に欲しいわぁ」
「私もあと10歳若かったらねえ」
と、中年のおばさん二人が照れ笑いを見せ
「なんか守ってあげたくなるタイプっていうか~」
「目が可愛いよね」
「怜人君、研究頑張って~」
と、若い二人の女性が声を揃えたところで、街の人へのインタビューは終わった。
続いて、怜人本人へのインタビューが流れ始める。
休日には何をしてますか?という質問に
「小説を読んでますね。夏目漱石の紙の本を集めています」
と、真面目に答え、好きな女性のタイプはと訊かれると
「ええと・・・真面目で頑張り屋さんが好きですね」
と、照れながらも真面目に答えている。
怜人は自分がでているところを観終わって、こんなの需要あるんですかね?と美来に訊いてみると、
「国内視聴率は94%です」
と、驚異的な数字を教えられてしまって、また溜息を吐くしかなかった。
どこで嗅ぎつけたのか、施設の周りには一目怜人を見ようと連日女性たちが集まり、メイティング希望者の数もどんどん増えていた。
怜人はまた苦笑いで希望者のデータを見るのを断り、姿を見かけないまひるを知らないかと訊くと、美来は言いにくそうに眉を顰めて、最近難民地区に出入りしていることを彼に伝えた。
もし怜人の妹だと知られると、何に巻き込まれるかも分からないので、今後は控えるように注意しておくと美来は言った。
彼は妹が迷惑をかけていることを謝り、研究の続きをするために部屋を出て行った。
机に向かって資料を眺めるが、一向に成果は出ていなかった。
「加熱処理や化学処理では変性してしまって、不活化によるワクチン開発は難しいな。弱毒化は世界中のAIが試しても、手がかりさえ掴めてないし・・・
クソっ!もっとMKウイルス自体について知らなきゃ、特効薬なんて作れっこない!」
苛立って机を叩きつけ、ボーっと天井を仰いだ。
美来に人類の危機を説明されて、メイティングを請われた時、一ヶ月だけ待って下さいと返したが、このままでは期限までに特効薬開発なんて夢の話で、その約束をなかったことにしたいとさえ思い始めていた。
一息入れるために部屋を出ると、見知らぬ女性がこっちに向かって歩いてくるところだった。
「生体での実験は難しいから、AIにシミュレーションだけさせといて・・・」
と、独り言をいうその女性は、パンツ一枚に白衣だけを羽織った半裸状態で髪がボサボサだった。
そして怜人に気付かず、そのまま進んでぶつかってしまった。
「いたたた・・・!ごめんなさい!考えごとしてて気付かなくて!」
倒れた拍子に白衣がはだけ、胸が完全に見えていたが、それには構わず女性は真っ先に謝った。