終末のハーレム3巻19話
【学園の秘密】
「・・・ん」
「おはようございます」
隣のベッドではなく、隣に寝ている一条が目覚めたばかりの土井に朝の挨拶をする。
朝一番に見る同級生の裸に一瞬ドキッとしながら、「おはよう」と返した。
水を飲んで頭をスッキリさせると、昨夜、一条が激しく乱れていた姿を思い出した。
何気なく、そのペットボトルの水を「飲む?」と訊くと、
「ありがとうございます」
と、言って受け取ったものの、少し考えてから飲ませて下さいとおねだりをしてきた。
甘える仕草にまたドキっとし、何も言わずに水を含んで口移しで飲ませてあげた。
水がなくなっても、もっと求めるように舌を絡め合って、名残惜しむようにキスを終える。
彼女は彼の肩に頭をもたせかけて
「どうしよう・・・相部屋を交代する日のことを考えると、今から切ないです」
と、悲しげに呟いた。
その日のうちに、土井は先生に会いに行った。
音楽室でピアノを弾いていた先生は、土井が入ってくると驚いたように「翔太君!」と言った。
「げ・・・元気だった?」
「・・・はい・・・先生と会えなくて寂しかったです」
「私も・・・・・・一条さんとはうまくやってる?」
「・・・はい」
どこかぎこちない会話を交わす二人。
土井は打ち明けようかどうしようか迷っていたが、先生の顔を見ているうちに罪悪感に耐えかね、一条としたことを話そうとした。
「先生・・・その・・・ごめんなさい!僕」
と言おうとすると
「いいの!」
と言って、先生が遮った。
「・・・何も言わないでいいの。翔太君はみんなのものだから・・・仕方ないよね」
一体、どういう意味なのか分からず、彼は訊き返した。
「みんなのものってどういうこと?先生は何か知ってるの・・・?」
先生は涙を流すが、彼の問いの正解を自分の口から伝えようとはしなかった。
「・・・言葉通りの意味よ。神谷さんに聞いてみて」
そう告げて、教室から出て行ってしまった。
土井は先生に言われた通り、屋上にカレンを呼び出した。
校庭では、女子たちがグループを作っておしゃべりしたり、バレーボールをしたりして遊んでいる。
カレンがやってくると、彼は訥々と自分の考えを話し始めた。
「コールドスリープから目を覚ました後、不思議なことばかり起こってる」
「そうですね~。この5年で、世界は激変しちゃいましたからね~」
と切り出し、カレンはそれに相槌を打つ。
「僕以外の男がいなくなったとか、最初は騙されてると思ったけど、そんなことをしてもメリットなんかない。
女の子の気持ちは分からないけど、先生も一条さんも演技をしているようには見えなかった」
それにカレンは言葉を返さず、次に何を言うのか待った。
「だから、世界で男が死滅してごく一部だけがコールドスリープについている。そこまでは本当何だと思う」
「当然じゃないですか~。翔太様に嘘はつきませんよ!」
少しの時間はかかったが、自分から世界の状況を信じてくれたことに安心して、カレンは言葉を返す。
しかし、翔太が話したいことはここからが本題だった。
「僕の他にMKウイルスへの抵抗力を持っている人はいるの?」
「・・・そうですね。世界は広いですから、もしかしたらどこかにいるかも知れませんね」
カレンは白を切って、土井にも自分が世界でたった一人の希望だと信じ込ませようとした。
土井は、そのカレンの答えが真実であろうとなかろうと、一つの答えを出していた。
「この学校は、僕で何かの実験をするための場所なんでしょ?」
限りなく正解に近い答えを一人で導き出した彼の考えをもっと聞きたくて
「どうしてそう思うんです?」
とカレンは質問をし返した。
ここまでの話を真実と仮定する。
なら、MKウイルスに抵抗力を持つ自分は人類にとって一番貴重な存在だと言っても過言ではない。
なのに、今もまだMKウイルスが猛威を奮い続けていることからして、自分の身体をコールドスリープ中に調べても、新しい発見はできなかった。
ある程度の自由を与えているのは、ストレスからの自殺を防止するため。
そしてこの学校は、自分の好きそうな女の子を集めて機嫌を取りながら、何らかのデータを取るための実験場に違いない。
そんな結論を彼は導き出していた。
そこまで話すと、彼は一番言いたかったことを捲くし立てた。
「もしそうなら、利用されてる先生や一条さんが可哀想だ!僕にできることなら協力するから――」
と、最後まで言い切る前に、カレンは
「いいタイミングかも知れませんね」
と、言って遮った。
勢いを削がれて戸惑う彼に構わず、
「教室に行きましょ」と続けた。