終末のハーレム2巻11話
【世界宣言】

「みなさん、初めまして。水腹怜人といいます」

 

突然テレビの中に映し出された兄を見て、まひるは驚きの余り声も出なかった。

 

ホームの女性たちはすぐには信じられないようで、この放送が過去の映像を流しているのではないかと疑いもした。
終末のハーレム

 

 

まひるはいてもたってもいられず、ホームから飛び出した。

「お兄ちゃん・・・いきなり・・・何で!?」
終末のハーレム

 

一人で考えても分からない疑問を抱えながら、彼女は街の女性たちもその放送に釘付けになっているのに不安を感じた。

 

 

怜人は、すぐ近くで美来や日本支部の幹部たちに見守られながら話し始める。

 

数日前にコールドスリープから目覚めたこと。

はっきりした理由は分からないが、MKウイルスに対する免疫を持っていること。

 

その前提を伝えた上で、彼は世界中で悲しんでいる女性たちに向けて伝えた。

 

「今は悲しい思いをしている人がたくさんいると思いますが、希望は捨てないで下さい」と。
終末のハーレム

 

この世界のどこかで生きているはずの絵理沙にも伝わるように、彼は希望と言う言葉に思いを託した。

 

世界中の女性が注目している演説。

 

怜人は自分もMKウイルスの特効薬の研究をすることも発表し、深々と頭を下げて締め括った。
終末のハーレム

 

 

街のパブリックビューイングでもたくさんの人が観ていた。

その中に一人、目深にフードを被った女性がいた。

 

連れの一人に呼ばれて立ち去ろうとする彼女の首には、怜人が大切にしていたペンダントがかけられていた。
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堂々とした演説に、鬼原は満足気だった。

 

世界に自分の存在を発表するという提案の代わりに、外出とMKウイルス研究施設の使用許可を手に入れた怜人。

もちろん、まだ他に4人活動可能な男性がいることは口外禁止だった。
終末のハーレム

 

去り際に、今後の行動次第では兄の処遇を保証できないと脅しをかけられるが、少し苛立ちを見せただけでいちいち言い返そうとはしなかった。

 

 

帰りの車の中でようやく落ち着けると思ったがそうもいかず、さっそくまひるから連絡がきていきなり怒られてしまう。
終末のハーレム

 

家族なのに、自分の知らないところで話が決まって実行されたことにまひるは怒っていた。

 

それに

「これで怜にぃが危険な目に遭う確立が高くなるに決まってるじゃん!しかも、友達にはコールドスリープしてるって言ってるのに、私が嘘吐きになっちゃうよ!」

と、兄と自分の両方の心配をしっかりしていた。

 

怜人はただ「ごめんって」と言うしかなく、言っても無駄だと思ったまひるは、怒りが冷めないままあっさり電話を切ってしまった。
終末のハーレム

 

 

一難去ってまた一難。

 

怜人は最後まで反対していた美来にも、迷惑をかけてしまうことを謝った。

 

「・・・今更引き返せません」

と、納得しないまでもやるべきことはやるつもりで彼女は答えた。
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「世界中が水原様のことを知ってしまったのですから・・・」

と続ける彼女に

「この世界がどうなっているのか、もっとこの目で見て回りたいんです。その為には、あの人たちから許可をもらう必要があった。

でも、これでもうこそこそしなくてよくなりました」

と、晴々した表情で怜人は答えた。
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憑きものが落ちたような彼を見て、美来は少し悪戯心を刺激される

 

これで橘絵理沙さんも探せますしね?と言うと、今更ながらに彼は照れて慌てるので、思わずクスリと笑わずにはいられなかった。

 

「私も会ってみたいです。水原様がそこまで大切に思っている方がどんな方なのか、知りたいですから」

と、美来は言った。

 

それがどこまで本心なのかどうか分からなかったが、それにおかしくない返答として

「・・・ありがとうございます」

と、怜人は返した。
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絵理沙によく似た美来。

UWから派遣された彼女。

そして、UW上層部の思惑。

MKウイルスの特効薬作りと共に、誰がそれを造ったのか?幹部たちの目的は何なのか?も、怜人はつきとめるつもりでいた。