美来は隣の車両から、そんなドタバタ劇を静かに見つめていた。
朱音は美来に付き合っているつもりか、向かいの席に座って
「あんたもあっちの車両に行けばいいのに」
と言ってみた。
しかし美来は、もう担当官ではない自分が傍にいることは許されないと思っているのか、もしくは麗亜と距離を置いているのか、朱音の提案を断った。
マリアは着替えるために個室トイレに入って、濡れた服を脱いでいた。
責任を感じた怜人も付き合い、廊下に待機して改めて謝りながら彼女が出てくるのを待っていた。
「ここ、こっちこそごめん。わわ、私男の人慣れてなくて・・・」
「こっちもタメ口でいいかな?年も近いみたいだし」
「・・・い、いいよ」
「黒田さん、専門はウイルスって言ってたよね?」
「う、うん。MKウイルスについてはそれなりに詳しい方だと思うよ」
ドア越しの会話で少しずつ打ち解けていく二人。
だが彼は、絵理沙の残した映像と技術長官が信頼を置いている相手だということを肝に銘じて、MKウイルスについての情報を引き出そうと考えていた。
「MKウイルスって、どうやって生まれたんだろうね?」
と話題を振ると、彼女は急に饒舌になって、途切れることなくスラスラと喋り出した。
「ウイルスの起源には細胞退化説、細胞脱出説、独立起源説の三つがあるけど、現在に至るまで答えは出ていないよ。
分からない以上、生まれたって表現が適切かも怪しいね。
太古の昔から存在していたのものが、今になって人類と接触しただけかも知れない。
そもそもウイルスの生物分類上の位置付けは非生物扱いな訳だけど、私に言わせてみれば――」
怜人はある程度自由に喋らせてから、絵理沙が導き出した答えをそれとなく訊いてみた。
すると、彼女は男が苦手だと言った同じ人物とは思えないほど、堂々とほぼ裸の状態で外に出てきて
「君、おもしろいこと言うじゃん」
と、嬉しそうに言った。
彼が驚いてまた尻餅をつかされてしまったのも気にも留めず、仁王立ちになって
「何にせよ、これから行く場所で手がかりが得られるかもね」
と言う。
「どういう意味?」と彼が訊くと、今度は彼の上に跨るようにしゃがみ、変わらず嬉しそうなまま
「慶門市はね、日本で最初にMKウイルスの犠牲者が出た場所なんだ」
と打ち明けた。
考察・感想
技術長官に対して悪い印象しかないが、彼女もある男性が死んだことを悲しんでいたので、MKウイルス開発の関係者ではなさそうだ。
だからと言って、マリアが白になる訳じゃないが、好きなものだけに熱中するオタク気質な彼女は、純粋にMKウイルスの謎を解き明かしたいだけのようにも見える。
それと、男は苦手なようだが、常にパンツ一枚でどこでも行動していることから、羞恥心はかなり薄いことが分かる。
美来を気にかける麗亜。
二人の間に何があったのかは謎だが、麗亜はレズっ気がありそうだ。