終末のハーレム22話
【温泉】
「わー広いですねー!」
宿の部屋に入った翠は、開口一番そう言ってはしゃぎながら駆け出した。
それでも麗亜はテンションそのままに
「私達以外は学生の旅行客がいるだけで貸し切りです」
と、冷静に事実を言葉にした。
朱音も翠のはしゃぎように合わせて、今夜の夕食に伊勢海老が出るらしいのを楽しみに話し、翠は温泉旅館らしく卓球をやろうと言い始める。
そこにマリアが、先に温泉に入ろうと提案する。
美来ははしゃぐ3人を微笑ましく見ていたが、麗亜は苛立ち、
「遊びに来てるんじゃないわよ!」
と声を荒立てる。
そんな様子に、怜人は苦笑いを漏らすしかなかった。
怜人が窓の外の綺麗な景色に見惚れていると、朱音が
「まひるちゃんも来られれば良かったのにね」
と気を遣ってくれる。
しかし、麗亜はそれにも厳しく言葉を挟んでくる。
朱音はそんなお役所気質な麗亜の態度が気に入らず、
「怜人をリラックスさせるのもあんたの仕事だろ?」
と意見するが、
「私の仕事は生活管理・・・後は精々ウイルス研究に集中させることです」
とやり返し、二人の間にも険悪な空気が流れていく。
その直後、麗亜の顔面に枕がヒットした。
いつの間にか翠とマリアが枕投げを始めていて、その流れ弾が当たったようだ。
朱音は麗亜との言い合いを切り上げて二人に混ざり、子供のように枕投げに興じていく。
麗亜はイライラしながら黙っていたが、もう一度顔面に飛んできてついに我慢の限界を超え、3人に向かって怒鳴り散らすのだった。
怜人は一人で部屋風呂に入っていた。
麗亜に安全上露天風呂はダメだと言われて仕方なかったが、諦めて一人の時間を満喫していた。
すると、急に部屋の景色が変わり、ホログラムで外の景色が映し出された。
粋な演出に感動した直後、
「こっちも悪くないじゃん」
と言いながら、朱音を先頭に女性陣が入ってきた。
朱音は何も隠さず、ニヤニヤと怜人を見つめている。
美来は少し照れながら、怜人の視線を気にしてタオルを前に垂らしている。
翠は子供のように走り回っていて、マリアと麗亜はできるだけ見られないように、しっかりタオルで防御していた。
「ちょっ!」
驚く怜人を無視して、朱音はすぐそばにずかずかと入ってきた。
「何でっ!?」
「いいじゃん。みんなで入った方が楽しいし、今は男湯女湯って概念もないしね」
そうあっけらかんと話す朱音だが、麗亜は羞恥と嫌悪を滲ませ、背中を向けて彼に身体を見られないように努めていた。
彼は我慢できなくなる前に、風呂から出ようとした。
しかし、朱音に腕を掴まれて、いつも世話になっている礼に背中を流してあげるよと言われる。
「いやいや!お世話になってるのはこっちですから!」
と彼が言うのを聞いた朱音は
「じゃあ、お願いしようかな。いつもお世話になってるお礼に、アタシたちの背中・・・流してもらおうかな」
と、詰め寄った。
誘導されたことに気付いたが、もう断れる雰囲気ではなかった。
最初は翠だった。
「はーっ、怜人様に背中を流してもらえるなんて極楽ですねー」
と、裸になってもいつもと変わらぬ彼女に、彼もいつもの調子で背中を流すことができた。
次はマリアだが、電車の中で見せたあの勢いはどこにもなく、最初に出会った頃と同じように男が苦手な様子でビクビクとしながら背中を見せてきた。
「よよ、よろしく・・・」
「う、うん・・・」
背中をこすりながら、あの時とのギャップに思いを馳せる怜人。
ウイルスの話になると性格がコロッと変わってしまった時のことを考えていたせいで手元が狂い、背中ではなく、彼女の股間にシャワーを浴びせかけてしまった。
思わずマリアは
「あっ!」
と声を漏らしてしまい、慌てて謝る彼から逃れるように、後は自分でやると言って終了させた。
次は美来。
朱音に促されて、彼が待っている前にゆっくりと腰を下ろした。
彼は妄想した通りに二人と混浴することになり、しかも普段は見えない美来の奇麗な背中を目の前にして、鼓動がどんどん速くなっていた。
そんな恥ずかしそうにしている美来を、麗亜は固唾を飲んで見つめていた。
麗亜の視線に気付いた朱音は
「アンタも洗ってもらったら?」
とけしかけようとするが。
「絶対イヤ」
と、変わらぬ意思を示されたので、言いだしっぺの朱音は計画通りにトリを飾ることにした。
彼はやっと最後の一人になって溜息を吐くが、
「アタシ敏感肌なんだ。手で洗ってくれる?」
と頼まれて、最後の最後に一番の難敵が控えていたことに、今更ながら気付いた。
朱音の策略にハマッて、まんまと誘惑されることになってしまった怜人。
彼女の背中に触れると、「はぁ~」と深い吐息を漏らされ、一層鼓動が速くなっていく。
「気持ちいいよ。あんた上手だね」
これ以上続けると危ないので、
「もう流しますよ」
と言って、手早く切り上げようとした。
しかし、次は自分で胸を前に寄せて、腋を洗うよう言ってきた。
「まだまだ、ほらこっちも」
そこが終わっても、今度は足の方も頼まれて、少しずつ前に部位が移動していく。
「足もいいでしょ・・・?・・・隅々までしっかり洗って・・・」
そんな二人の様子を、他の4人は頬を赤らめながら見つめていた。
朱音はこのチャンスに、この場で彼とメイティングするつもりだった。
「最後だよ・・・」
そう言って、既にヌルヌルになっている股間に手を引っ張り
「ぬちゅっ」
と、音を立てさせた。
そこまでしても彼は理性を保ち、一目散に風呂から飛び出して行くのだった。
翌日。
マリアに連れられて、怜人たちは病院の一室を訪れた。
そこに入院しているのは、谷口というおばあさんだった。
麗亜が自分と怜人を紹介しようとするが、谷口は「知ってるよ」と遮った。
日本で最初にMKウイルスの犠牲になったのは彼女の夫であり、マリアは研究のために再三谷口のところに訪れていたのだが、彼女は一切夫が感染する直前に何をしていたか語ってはくれなかった。
初対面の麗亜が説得しようとするが、彼女はついに激昂して大きな声を出してしまう。
マリアが、それは解明のための病理解剖だと説明しようとするが、理屈ではなく、彼女は感情で怒っているので、何が理由であろうと怒りは治まらないようだった。
怜人は冷静に、
「どうすれば協力してくれますか?」
と訊いた。すると谷口は。
「抱いてもらおうか」
と事も無げに言ったが、幸か不幸かただからかっただけだった。
取り合えず、日を改めることにした。
帰る道すがら、マリアは彼にMKウイルスが発生した当初のことを説明し始めた。
「MKウイルスは世界で同時多発的に感染者が現れたんだ。
ウイルスに関しては、テロ組織、独裁国家によるバイオテロ、自然発生、地球による人類淘汰なんていろいろ説があるけど、由来は明らかになっていないんだ。
それで、日本で最初に発見されたMKウイルスの感染者があの谷口のおばあちゃんのご主人なの。
そのご主人はテクノロジー嫌いで、GPSやライフログもつけていなかったから、感染前後の行動はそれを見ている人しか分からないんだ」
「上の世代には、そういう人も多いもんね」
詳しい事情を聞いた怜人は、件のおじいさんをひっくるめた世代の考えも分からないではない気持ちを滲ませて、そう感想を漏らした。
発症前にどこで何をしていたかが分かれば、ウイルスの発生源を特定できるヒントが得られるかも知れない。
しかし、谷口は頑なに話してはくれない状態だった。
麗亜は見たばかりの谷口の様子から、以前の政府の対応に問題があったのだろうと考えた。
その日の夜。
谷口は病院内が静かになった頃を見計らって、ある人物に怜人たちが訪ねてきたことを連絡していた。
「あんたの大事な人が来たよ」
「そろそろ会ったらどうなんだい?」
そう諭している相手は、怜人が今一番会いたがっている絵理沙だった。
考察・感想
朱音はもう怜人の意思に任せるつもりなのだと思っていたが、隙あらばいつでもメイティングする気満々だったようだ。
彼の鉄の意思には感服するが、女性に恥をかかせるとかいうレベルを超えて、最早性的不能を疑わなければならないレベルだ。
麗亜の発言に怜人が不安そうな目を向けていたが、彼女の台詞に何か違和感を感じたのか、単に先が思いやられるなと思っただけなのか。
絵理沙が谷口の孫ならば、怜人も知っていてもおかしくない。
孫じゃないならば、先に絵理沙または彼女を匿っている組織が先に谷口に接触して、UWを信用するなと伝えたのかも知れない。
しかし、後に怜人には気を許して話そうとするので、その可能性は低いだろう。
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