しかし「ダメです!こんなの間違ってる!」と現実に戻ってきた。
どうしてもメイティングを拒まれるんですね、と訊く美来。
「mating、種付けのことです」
そのネーミングはさすがに許せなかった怜人は
「俺は種馬じゃない!人を家畜みたいに言うな!」と激昂した。
しかし美来は謝るものの、子作りさせるのを諦めるつもりはなかった。
戸惑う気持ちも分かります。
先日ご覧になったように、人口が半減したことにより文明レベルは急速に下降し、難民となった女性たちは食料配給を受けて貧しい生活を強いられています。
ですが、あなたの子を身篭った女性は貧しい生活から抜け出せ、母子共に豊かな生活を保障されるのです。
この時代に生まれた子供はまさに宝で、それがもしあなたがたと同じウイルスの免疫を持つ男児ならば尚更です。
そういう事情もあって、先ほどの女性たちはここにいるのです。
そう聞かされると、怜人も見方を改めざるを得なかった。
美来はメイティングを決心させるために畳みかけた。
だがそれも、ただ真実を伝えているに過ぎない。
「現在コールドスリープ中の男性も、後1年足らずで死滅する可能性があります。あくまで病の進行を遅らせているだけで、ウイルスは確実に身体を蝕んでいるのです。感染前に眠りについた男性もいるでしょうが、もしこのまま希望が数を減らしていけば、暴動が起こるかも知れません」
怜人は真っ先に兄を思い浮かべ、残酷な現実に目を逸らさずにはいられなくなった。
美来は彼の手を取り、何か手を打たなければ本当に人類は滅んでしまいます、と言って情と使命感に訴えかけた。
握りしめる手から伝わる思いに、彼は決心した。
ただし、まだ絵理沙のことを諦められないので条件をつけた。
「1ヶ月待って下さい。探してる人がいるんです。今は行方不明ですが、手がかりを見つけたところなんです。俺は・・・子供を作るならその人とがいい」
と、譲れない思いを打ち明けた。
美来は逡巡してから、それを了承した。
ただ、彼女も条件を出した。
「1ヶ月の期限の間も、こちらが選んだ女性と毎晩一緒に寝てもらいます。メイティングをするかどうかは自由ですし、その方に操を立てているなら誘惑に負けたりしないでしょう?」
「そりゃそうですけど」
怜人は不安な顔を隠せずに、そう言うしかなかった。
最後に美来はお手並み拝見と言った風な、いたずらな笑顔を漏らした。
考察・感想
ここから彼の驚異的な意思の強さが始まっていく。
子作りするのは絵理沙がいいと言うのは分かるが、あくまで初めての相手という意味だと思いたい。
さすがに絵理沙オンリーだとしたら、それこそ暴動が起こるだろう。
寧々子が底意地の悪さを垣間見せたものの、それも欲求不満から来るものだと思えば、少しは同情の余地があろうというもの。
他人のエッチの世話をして、自分に順番は回って来ない。
美来が夜這いをかけたのは、あくまで例外的な対応だったと思う。