終末のハーレム1巻2話
【女たちの世界】
施設内に戻った怜人は、この世界がウイルスに冒され始めてからの動きをまとめたビデオを観た。
2040年。
突如として現れたMKウイルスにより、世界は壊滅的被害を被り、僅か3ヶ月で世界中に広がった。
殆どの国が無政府状態に陥るが、残された女性たちはunited womenを組織し、全世界の統治をそこに委譲することで、なんとか落ち着きを取り戻していった。
高度AIによるワクチン開発がうまくいかない中、日本で希望が見つかる。
細胞硬化症によりコールドスリープしている男性が、MKウイルスに免疫を持っている可能性が分かり、UW政府は秘密裏に一人目の男性を眠りから目覚めさせ、無事ウイルスに感染しないことが確認できた。
そして他の4人も、順次タイミングを見て、人類の希望となってもらう予定になっていた。
それが、怜人が眠っている間の大まかな世界の動きだった。
「SF小説みたいな話ですね」と苦笑いするしかない怜人。
「これはまぎれもない事実で、あなた方の存在はこの施設の人間とUW上層部しか知りません。だから昨日のような軽率な行動は控えて下さい」と、美来は釘を刺した。
怜人も医学生らしく、思いつく可能性を挙げていった。
「人工授精すればいいんじゃないですか?」と訊くが、そんなことはもちろん試されていた。
しかし状況は何も変わらなかった。
女の子が生まれればそのまま成長するが、男の子なら数日で死んでしまう。
「なら、MKウイルスに免疫を持つ俺たちの精子ならうまくいくんじゃ?」
それにも美来は首を横に振る。
「水原様より先に目覚めたナンバー1と呼ばれる男性の精子を使ってみても、胚形成がうまくいかないのです。その理由も分かりません。ただ、今はナンバー1の子を身篭った女性がいるので、その子に希望を託すしかない状態です」
さらに美来は悪いニュースを続ける。
「科学者、技術者が半数以上に減ったことから科学力は衰退の一途を辿り、MKウイルスの研究と、生存に必要な科学技術以外を研究する余裕がないのです」と。
「とにかく、水原様を含め、ウイルスに免疫を持つ男性に子作りに励んでもらわないと、人類は絶滅する可能性が高いのです」
そう言って、目覚めたばかりの彼に悲惨な現実を突きつける。
「俺をかつごうとしてるんじゃ・・・」
「そんなことをして、我々になんの得が?」
とにかく信じたくないし信じられない怜人は、まず家に帰して下さいと頼むが、今は子作りが最優先ですと言われて、取り合ってもらえない。
すると美来はタブレットパネルを見せてきた。
そこには裸の女性の画像とプロフィールが書かれてある。
「な・・・なんですかこれ?」
「この中から、子作りしてもよいという女性を選んで下さい」
まさかの答えだったが、それでも彼は信じられないとつき返し、美来に溜息をつかせた。
美来は仕方なく、信頼できる方から説得してもらうことにしますと言った。
そこで連れて来られたのが、5年ぶりに会う、少し大人になったまひるだった。
泣いて再会を喜んでくれたのはいいが、兄が裸の女の画像を見ていたらしいと分かり、龍兄と同じく、容赦なく鉄拳を食らわせた。
言い訳を聞いてくれないまひると共に向かったのは、コールドスリープについて特効薬の開発を待っている男性たちのところだった。
そこには兄の龍もいて、逆の立場になって再会を果たした。
眠る兄を見て、怜人はようやく現実を受け入れ、今まで親代わりとして頑張ってくれた兄を救いたいという気持ちを芽生えさせる。
怜人はまひるに「絵理沙はどうしてるんだ?」と訊いてみた。
まひるは言いにくそうにしながら
「3年前から行方不明なんだ。ちょっと前に絵理沙ちゃんのお母さん意に会って聞いたんだけど、ずっと連絡がつかないって」と言った。
そこで美来も自分なりの想像で会話に入ってきた。
「この何年かで、日本も他の国もかなり混乱しています。事件に巻き込まれたか、最悪・・・」
聞いてられなくなった怜人は声を荒げて「そんなこと言わないで下さい」と遮った。
そして携帯を取り出して絵理沙にかけるが、まったく応答してくれなかった。