終末のハーレム24話前後編
【奇妙な留学生】
「はあはあ」
「ふーふー」
二人とも苦しそうな呼吸を繰り返していたが、先に出て行くつもりはなかった。
「申し遅れました。
わたくしははクロエ。
アメリカから留学にいらっしゃいました」
彼女はそう自己紹介をした。
どうやら、おかしな日本語は染み付いてしまっているようだった。
流暢な日本語には変わらないので
「日本語、お上手ですね・・・」
と褒めると
「わたくし、日本が大好きでらっしゃいますから」
と、浴衣をはためかせて風を送るクロエ。
「わたくしと、おセックスなさりたいですか?」
と、また突然訊いてきた。
彼が暑さと照れで一層顔が赤くなる中。
「Oh・・・メイティングと言うのでしたね」
と、おどけて見せる。
「あまり、我慢しないほうがいいですことよ。
サウナも・・・女も」
「・・・我慢するのは得意なんです。クロエさんこそ、無理せず早く出たほうがいいですよ」
白熱した我慢比べは双方とも一歩も引かず、彼もクロエの誘惑に屈することはなかった。
その会話からおよそ30分。
「はぁーはぁー」
最初の頃より呼吸音がかなり荒くなってきていた。
そして、先にダウンしたのはクロエだった。
「ヤマトダマシイ・・・お見事でございます」
そう言って、外に出ることなくその場で倒れてしまった。
怜人は彼女を背負い、既にあの二人組がいなくなっているのを確認して、脱衣場に運び込んだ。
流れ出した水分を補給してから、彼女にも飲ませようとするが、意識が朦朧としてグッタリしているので、とても自力で飲めそうに見えなかった。
すぐに朱音を呼びに行こうとするが、手を掴まれ
「口移しで・・・飲ませて下さいませ・・・」
と、トロンとした表情のまま頼んできた。
「いやいやいや、今ナースを呼んできますから!」
「・・・今がいいのです・・・飲ませてくれなきゃ、大声出しますことよ・・・」
彼女はグッタリしていても強気な姿勢を貫いて、こんな時でも脅してくる。
しかし、やはり具合はとても悪そうで呼吸は荒く顔も赤い。
怜人は仕方なく、一気に水を口に含んでキスをして流しこんだ。
その直後、朱音と麗亜を連れて翠が戻ってきた。
タイミング悪く、丁度水を移し終わって唇を離した瞬間だった。
「怜人さまが・・・みんなを差し置いて知らない女の人とメイティングを・・・」
翠は驚愕し、朱音は見直した風に口笛を吹き、麗亜は汚物でも見るような目を向けた。
「あっ・・・いや、これは・・・」
「怜人さまの裏切り者~!」
彼の言い訳を聞かずに翠は逃げ出し、
「何にせよ、ヤル気いなったのなら良かったよ!お邪魔様~」
「やっぱりケダモノね」
二人もそう言って、彼の話を聞かずに去っていった。
その直後、クロエが平気そうに起き上がり、
「楽しかったですよ。ごちそうさまでございました」
と言った。
彼女はダウンした演技をしていたのだった。
アメリカの女性はあれくらい何ともないんですのよ。
不適な笑みを零しながら
「今度は最後までなさりましょう。水原怜人さん」
そう言い残して、投げキッスをしてから彼の前から姿を消したのだった。
翌日。
再び谷口のもとを訪れた怜人は、今度は肩を揉まされ都合よく利用されていた。
谷口は肩の揉み方に口を出しながら、マリアと話している美来に注目した。
すると谷口は、
「兄ちゃん、ちょっとパン買ってきてくれ。
200m先の交差点のところのパン屋の、白アンパンが食べたい」
と言い出した。
麗亜がUWの者に買いに行かせますと割って入ろうとするが、怜人が買って来なけりゃ食べないよと我がままを押し通そうとする。
彼はひとっ走り病室を抜け出し、それに麗亜もついて行った。
美来は遠ざかる二人の後ろ姿を見つめていた。
「ちょっとあんた。あんたと二人で話がしたい。入りな」
二人が出て行くと、谷口はマリアだけを廊下に残して、美来に入るよう言った。
美来が入ってくると、谷口は前置き無しに訊いた。
「橘絵理沙のことを知っているだろう?」
「!!・・・その方は水原様の幼馴染みで――」
「そういう意味じゃないよ」
美来があくまで認めようとしないので、谷口は遮って溜息をつく。
「じゃあ、質問を変えよう。あの坊やがどんな人間なのか教えてくれ」
「・・・どうしてそんなことを訊くのですか?」
「いいから答えな。あいつの役に立ちたいんじゃないのかい?」
絵理沙と美来の関係を訊き出すのを諦めた代わりに、怜人が本当に信頼に足る人物なのかどうか、絵理沙と繋がりのある美来から見た彼の話を聞く事で、谷口は自分の凍った心を溶かしてもらおうとした。
美来は頭の中で少し整理してから、口を開いた。
「水原様は勝手な方です」
そう話し始めた。
「特効薬開発に打ち込んでいることはとても素晴らしいことですが、UWが健康管理をすれば、研究開発をしながらでも、週に1~2回のメイティングは可能だと思います。
世界が崩壊しかけている現在、
水原様に好きな人がいることは、メイティングを拒否する理由になりません。
・・・本当に勝手な人」
そこで美来は僅かに区切り、本心を吐き出すために息を整えた。
「でも、なかなかできることではありません。
ご自身でも仰る通り、水原様は女性が嫌いな訳じゃなく、一般的な男性と同じように性欲をお持ちで、
いつもそれと戦っています。
それでいて、世界を相手に自分勝手さを貫ける人だから・・・
あの人なら・・・本当に世界を救えるかも知れない」
美来の怜人評を黙って聞いていた谷口は、そこで言葉を挟んだ。
「あの坊やのこと、よく知っているようじゃないか」
美来はそれに
「ずっと・・・あの人を見てますから」
そう言って、切なそうな笑顔を見せた。
怜人がパンを抱えて戻ってきた頃には、もう美来は部屋の中にいなかった。
谷口はわざわざ買いに行かせたパンをいらないと突き返し、これからも子作りしないつもりかい?と訊いた。
怜人は少し思案し、答えた。
「それが本当に人類のためになるのなら、いずれするかも知れません」
「惚れてる女のこと、諦めんのかい?」
「いえ・・・メイティングは単純に求められるからするだけで、心は変わりません。
好きなのは一人だけです」
怜人は躊躇うことなく、一途な思いが変わらないことを告白した。
谷口はその言葉に夫を重ねた。
また背中を見せて布団を被りながら、今日は疲れたからまた明日にしてくれと切り上げさせる。
「明日は昔話に付き合ってもらう。たまには、あの人の話でもしたいからね」
怜人と麗亜は谷口が心を開いてくれたことが分かり
「必ず来ます!」
と声を揃えた。
彼らが出て行くと、絵理沙に怜人が来たことを話した時のことを思い出した。
「いい加減会ったらどうなんだい?世界なんかほっといて、惚れた男のところに行ったって、
バチなんかあたりゃしないよ」
そう説得しようとしたが、絵理沙は首を縦に振ろうとしなかった。
なら、今度は怜人が他の女とよろしくやるかも知れないと、危機感を煽った。
「あんたも頑固だね。ぼやぼやしてたら取られちまうよ。
今日もきれーな姉ちゃん連れてて――」
そう言っても、絵理沙は笑顔でこう答えた。
「たとえ怜人が誰かのことを好きになっても、私が好きなのは怜人だけだから・・・」
何年も会っていなくても、お互いに想い合っている二人の愛に、谷口は思わず笑みを漏らした。
その日の夜。
何者かが谷口の病室に侵入し、点滴の中に何かを注射した。
その直後、谷口は苦しみ出し、彼女の異変を知らせるブザー音が静寂を切り裂いた。
考察・感想
美来と絵理沙の関係が大きなキーポイントなのは間違いない。
ここまで似ていると血の繋がりがあると思わずにはいられないし、クローンの可能性も視野に入れておきたい。
まさかメイティングさせるためだけに整形させられたことはないだろう。
クロエも何らかの形で再登場するだろうが、どの勢力に属しているかはまだ分からない。
そして谷口を消そうとする謎の人物。
彼女が心変わりしたのを直接聞いたのは怜人と麗亜だけだが、怜人ガールズに伝えられていないことはさすがにないだろう。
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