終末のハーレム25話
【疑念】
「こーこー」
「ピッピッ」
呼吸器をつけられた谷口の息遣いがこだまし、彼女がまだ生きていることを示すように電子音が鳴り続けている。
担当ナースが
「急に容態が変化して・・・」
と、心配そうに見つめている怜人たちに話し
「昨日まで元気だったのに・・・」
と、彼は信じたくない気持ちを滲ませる。
「きき、きっと大丈夫だよね?」
「昏睡状態なので予断を許しません」
マリアの不安を、ナースは拭いさる事ができない。
するとナースは
「あの、これ谷口さんから・・・」
と言って、あるものを彼に手渡した。
容態が急変した直後、まだ意識が残っていた彼女は、ナースに自分と夫が移ったツーショット写真を託して、怜人に渡すよう頼んでいたのだった。
彼はその時の光景を想像し、
「・・・一旦お預かりします。谷口さんが元気になったら返しに来ます」
と言って受け取った。
「それまでの看病、よろしくお願いします」
ナースに頭を下げ、彼女はその姿勢にほんのりと頬を染める。
その二人のやり取りを真顔で見ていた麗亜。
その麗亜を、朱音は注意深く観察していた。
火野はホテルの一室に、お気に入りの3人を侍らせて、優雅に過ごしていた。
リカ先輩と再会して一度メイティングしてからは、度々彼女を指名し、フリーター時代の憧れの存在に夢中になっていた。
「はい、あ~ん」
指ごと口の中に入れられて「あん♡」と、声を漏らすリカ。
「まさかマドンナだったリカ先輩にあーんしてもらえるなんて、俺は幸せだよ」
「お世辞言っちゃって、もう」
「お世辞じゃないけど?」
いちゃいちゃする二人を、巨乳のツインテールは嫉妬の眼差しで見ていた。
そして、自分に目を向けさせるために口移しでワインを流しこんでいく。
「恭司様!喉渇きませんか?」
「ん?ああ」
彼がそう答えるとすぐにワインを口の中に含み、零さないようディープキスをして、喉の奥に流し込んだ。
それを玲奈は羨ましそうに見つめ、首筋を伝う零れたワインを舐め始めた。
二人といい雰囲気になり始めて蚊帳の外にされたリカは、
「ちょっと私も」
と言って、3人に混ざろうとする。
我先にと群がってくる彼女たちを落ち着かせるために火野は
「ちゃんと3人とも満足させるから安心して」
そう言って、さっそく両手と腰を使って3人同時に喘がせていく。
「ん・・・!」
「恭司様・・・」
「あんっ!」
「恭司くんっ・・・」
「恭司様・・・」
3人とも快楽に溺れて、彼の名を呼びながら身体をビクビク震わせていく。
彼も気持ちよさを感じていたが、
「幸せだけど・・・毎日同じような過ごし方だと飽きてくんなあ・・・もっと刺激が必要だ」
と、思っていた。
怜人はマリアに案内してもらって、谷口の主人が運ばれた病院を調べに来た。
「こ、ここは昔病院で、おばあちゃんの旦那さんが発症後に運び込まれたところなんだ」
「じゃあ、ここから日本のパンデミックは始まったんだね」
そこは既に廃墟になっていた。
しばらく建物内を進んでいくと、急に翠が
「う~・・・怜人さまーー!」
と言ってしがみついてきた。
「無理です
イヤです
怖いですーー!
翠、お化けは苦手なんです。もう出ましょうっ!」
そう言ってガタガタと震えるが、
「まだお昼だから大丈夫だよ」
と言われて、泣く泣く付き合うしかなかった。
しばらく見て回ったが、特に新しい発見はできなかった。
「一応来てみたけど、手がかりは何もなさそうだね」
「くく、空港とかで感染者が発見されたのなら、海外から持ち込まれたって類推できるけど・・・
谷口氏が発症前、何をしていたか分からないから、感染経路が特定できないんだ」
マリアの回答に、怜人は生死を境をさ迷っている谷口を思った。
そして
「感染者は世界で同時に現れたんだよね?」
と、改めてマリアに確認してから、そこから見える外の景色に、この辺りも難民地区で荒れ果てている現状に、UW日本支部への反発を募らせていく。
「あの長官たち、中央のことしか考えてないんじゃないの?」
「ちょ・・・長官たちもそんなに悪い人じゃないよ。
ちょっと強引なところはあるし、秘密主義的だけど・・・」
と庇うマリア。その流れで、彼女は自分の家族のことを話し始めた。
「わわ、私この慶門市に妹がいるんだ」
「へえ!知らなかった」
「と、年も離れてるし、一緒に暮らした時間は短いんだけど、
ああ、頭のいい子で、UWに見出されて飛び級で高校に入れてもらったんだ。
だから感謝してる」
初めて話してくれた彼女に関することに、彼は黙って耳を傾ける。
「コールドスリープしている男の人たちを蘇らせようと、あ、あの人たちも必死に頑張ってるんだよ」
「そう・・・なのかな」
長官たちの人となりを知り、感謝さえしているマリアの言葉に、彼は抱いていた反発心がほぐれていくような気がした。
ただ、翠は最後までこの場所を怖がり続けていた。
「ちゃぽん」
麗亜は一人で露天風呂に入りに来ていたが、彼女を探していた朱音も丁度やって来たところだった。
「何?いきなり」
「裸の付き合いってやつをしようと思ってね。あんたとは、まだちゃんと話せてなかったから」
と、改まった態度でゆっくり話すつもりなのを匂わせる朱音。
麗亜はまず朱音の大き過ぎる胸を見てから
「全く、野蛮ね」
と吐き捨て
「女同士なんだから、隠す必要もないでしょ~」
朱音は笑って言い返す。
麗亜がいつものようにイライラし出して急かすので、朱音は本題に入った。
「谷口のばあちゃんのことだけど・・・
後でカルテと生命維持装置の数値を見せてもらったんだけどね。
明らかに異常な数値の変化だった・・・
あれは誰かに毒を盛られたんだ」
一気に核心を突いて、朱音は麗亜の表情の変化を探ろうとした。
しかし、彼女はポーカーフェイスを貫き、朱音を見ずに前だけを見ている。
「それが本当なら一大事ね。調べる必要があるわ」
そう言いながら立ち上がるので、
「話はまだ終わってないよ」
と、朱音は腕を掴んで止めようとする。
「触らないで!」
声を荒げて振り解く麗亜を、朱音は壁際に追い詰めた。
そして、完全に疑っていることを隠さず、あの夜のアリバイを問い質した。
「アンタ、あの夜何してた?」
考察・感想
このまま麗亜が犯人だとしたら、あまりに芸がなさ過ぎる。
谷口が心変わりしたのを直接聞いたのは、怜人と麗亜だけだから、状況的に可能性は高い。
しかし、心変わりを他のメンバーに話していなかった、とするのは説得力に欠ける。
主人公が犯人、なんてパターンもミステリではあるが、そうなると怜人の動機はさっぱり分からない。
とにかく、マリアとちふゆの姉妹関係がほぼ明らかになったし、慶門市に住んでるとなると、やはり学生の宿泊客は土井学園の子たちの可能性が高まってきた。
つまり、留学生のクロエもあの高校に在籍しているかも知れない。
無料で読む方法とおすすめ試し読みサイト
https://www.kuroneko0920.com/archives/19447