終末のハーレム26話
【交錯】
あの夜、何してた?
朱音の質問の意図をはっきりと分かりながら、麗亜は動揺することなく淡々と答えていく。
「あの夜は・・・中央への報告書を書いていたわ。
慶門市に来てからの、水原怜人の動向を上に報告する必要があるの」
「一緒に誰かいたの?」
おそらくそんな風な答えが返ってくるだろうことを予想していたのか、朱音は間髪入れずに次の質問をぶつける。
「・・・一人よ。
そもそも貴方に問い詰められる筋合いはないわ。
立場をわきまえて頂戴」
さすがにあからさまに疑われて、麗亜も言い返した。
朱音は素直に彼女から離れ、でも長官たちに何を言われたのか知らないけど、怜人に何かしたら許さないよと伝えた。
すると、麗亜はそこにつけこんできた。
「貴方こそ、随分鬼原長官を気にしているみたいね。
龍造寺さん」
意味深に苗字を呼ばれたことで、朱音はハッとした。
「アンタ、あたしのこと・・・」
「一応あの男の担当官ですからね。
周囲の人間の素性は一通り調べてあるわ」
人類の希望の男を管理しなければならないのだから、当然の予備知識だとほくそ笑む麗亜。
さらに彼女は、朱音を動揺させようと言葉を紡ぐ。
「貴方がUWの役人を嫌っているのは、弟さんのことが――キャッ!」
「黙りな」
最後まで言わせず、朱音が壁ドンをして再び壁際に追い詰めた。
「アタシの前であいつの話をするんじゃないよ」
朱音はそう言って切り上げ、風呂から出て行った。
麗亜は恥ずかしさと恐怖からか顔を赤くして、彼女の背中を睨みつけていた。
都心に戻るため、怜人たちは車で駅まで向かっていた。
その車内で、谷口から預かった写真を彼は麗亜に返してもらっていた。
ただ何か危ないものが付着していないか調べるために預かっただけだが、それでも怜人は彼女自身に反発しているように機嫌を損ねていた。
それよりも、今はこの写真を託された意味が知りたかった。
好きな人を諦めるのかい?と問われ、そうじゃないと絵理沙を思い浮かべてきっぱり言い返したあの日のことを思い出す怜人。
その時、写真立てが近づいた瞬間、鞄の中に入れてある絵理沙が残したリングが反応して振動した。
それを悟られないよう平静を保っているうちに、マリアの妹が通う高校の前を通りかかった。
「あっ、うちの妹の高校だ」
「寄ってかなくていいの?
都心に戻るの少しくらい遅くなっても」
「ううん・・・あっちも勉強で忙しいだろうし」
久しぶりに会うからか、他人に家族といるところを見られるのが恥ずかしいのか、少し照れたようにマリアは彼の提案を断った。
校門の前には、彼らが乗った車をカレンがじっと見送っていた。
そこにゆず先生が荷物を抱えてやってきた。
「神谷さん、どうしたの?」
「何でもないよゆずせんせー!行きましょ」
すぐにいつものカレンに戻り、先生の荷物を半分持ってあげた。
先生は校舎を振り返り、「ええ」と一言返して、彼女と共に歩き出した。
避難民が寄り集まって暮らす区域に、一台の高級車とボックスカーが停車していた。
周りには屈強なSPが張り付いていて、避難民は突然の来訪者に驚いて様子を窺っていた。
車中から女性を物色していた火野は、タイプの子を見つけると指差して寧々子に伝えていた。
「おっ、あの子いいかも」
「左前方に一人で立っている黒髪の女性」
「了解」
寧々子がマイク越しにSPに伝えると、すぐに本人に接触して話しかけた。
女性は驚いているが、喜んでいるようでもあった。
「うまくいったようですね」
「やりい」
女性はSPに案内されてボックスカーに乗り込んだ。
今までのハーレム生活に飽きていた彼が思いついたのが、一般人の中から自ら女性を選びに外に出るというものだった。
「アイデアをくれた寧々子ちゃんに感謝だよ~」
「喜んでいただけて何よりです」
本当は外の世界に存在が知られるような危険を冒したくなかったが、メイティング候補者が増えるし、火野が喜んでくれるなら・・・
そう考えて、寧々子は自分を納得させていた。
またしばらく難民区域を流していると、火野が車を止めるよう指示を出した。
「あの子!あの子声かけてきてよ!
あそこで子供と手を繋いで歩いてるツインテールの子!」
それは、最近よく難民区域に出入りして子供の面倒を見ているまひるだった。
寧々子はそれが怜人の妹だと気付き、まさかの偶然に驚愕する。
「笑顔が超いい感じ!
あの子とメイティングしたいね~!」
彼はご機嫌で催促してくるが、さすがに寧々子は躊躇してしまっていた。
その頃、駅に着いた怜人は美来たちを待たせてトイレに入った。
数年使われずに清掃もされていない男子トイレは荒れ果てていたが、我慢して個室の扉を開けて鍵が閉まるのをしっかり確認した。
そして絵理沙のリングを腕にはめ、預かった写真立てを近づけた。
すると二つが反応し、リングが写真立てからデータを受信した。
その直後、論文のデータが表示された。
「男性特異的殺人人工合成ウイルスの開発」
それはMKウイルスの作成方法で、絵理沙が見つけたと言っていた情報に間違いなかった。
「(これが絵理沙の言っていたデータ?
でも、これをどうして谷口さんが・・・)」
「怜人さま~。
もうリニア来ちゃいますよ~」
「ああ、ごめんすぐ行く」
突然翠に声をかけられ、ビクッとしながらも咄嗟に返事をした。
もしかして長官たちがウイルスを?
谷口の容態が悪化したのもこのデータが原因なのか?
ここで考えても答えは出ないが、とにかくウイルスの作成方法が分かれば、特効薬も開発できることは確かだった。
トイレを出て彼女たちのところに戻った。
「怜人さま早くー」
「ごめんお待たせ」
翠に呼ばれて小走りに近づいていく。
いつもと何も変わらない様子の彼女たちを見て、怜人は気を引き締め、鞄を持つ手に力を込めた。
「(誰が敵で誰が味方か分からない・・・
慎重に動かなきゃ!)」
「あーもー、世界中からだよ。
主要国だけじゃなく、UWに加盟してる国で
あのフニャチンへの面会を求めてきていない国はほぼ皆無だね。
他の二匹は秘密裏い子作り、あと二匹はこれからだ――」
技術長官は電話でそう話しながら、ダーツの矢を構えた。そして
「よっと!」
の掛け声で、全裸の女性の的に向かって投げ、見事に股間すれすれに刺した。
女性は緊張と興奮で、股間から愛液を滴らせた。
長官は電話の相手に向かって話し続ける。
「焦んな焦んな!
水原怜人もいずれ、メイティングするようになるさ。
そう決まってんだ・・・楽しみに待ってな」
そう言いながら、もう一本投げた。
終末のハーレムの考察と感想
ついにウイルスの全容を手に入れた。
しかし、このまますんなりと特効薬が開発できるとは思えないし、簡単にできるならとっくに絵理沙が開発しているだろう。
あまりに高度な技術が必要なのか、情報を手に入れた瞬間に危険を感じたのか分からないが、一筋縄ではいかないはずだし、谷口に毒を持った犯人も分からない。
まひるは狙われるし、長官はまた何か企んでいるし、カレンも動き出したしで、まさに交錯な26話だ。
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