終末のハーレム1巻6話
【決意】

熊は一番小さな翠に目がけて走り出した。

 

「危ない!!」

 

怜人は咄嗟に身体を投げ出して翠を庇うが、熊の爪が彼の腕に掠り、服を引き裂いて血が滲み出してきた。
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勢い余って窓ガラスに激突しながらもしっかり翠を抱きしめたまま、

 

「周防さん!朱音さん!逃げて下さい!早く!!」

と促した。

 

しかし二人は、熊が現れてからも今でも、全く慌てた様子を見せないばかりか、逃げる気配もなくその場に立っていた。

 

その時朱音が

「翠!仕事しな!」と大きな声をあげた。

するとさっきまで怜人の怪我を見て慌てふためいていた翠はスッと立ち上がり「はい」とだけ答えて、熊に近づいていく。
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まるで感情がなくなったように、無機質な感じがした。

 

 

翠が熊の目の前に立った直後、

「お行儀の悪いクマさんは嫌いです」

 

と言って目にも止まらぬ速さで宙に飛びあがり、落下しながら熊の首筋に手刀を叩きこんだ。
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そして熊はその一撃で完全に気を失い、地面に倒れ伏した。

 

それを確認すると、翠はいつもの彼女に戻ったように、明るい調子で

「任務完了しました」と笑顔を見せた。
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「アンタのボディガードは翠の方だよ」と言う朱音。

 

その翠は怜人に怪我をさせてしまったことを「ボディガード失格です」と泣いて謝っている。

 

となれば、ナースは朱音の方だった。

そのことに怜人が気付くと同時に、朱音は着ていたタンクトップを胸元辺りから引き裂いた。
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そしてそれを怜人の怪我した腕に綺麗に巻きつけ

「アタシ♥」

と答えた。
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美来はとんでもない警備の不備に、声を荒げて責任者を呼び付けて注意した。

そんな騒ぎを遠くから観察していた何者かの存在に、美来は気付いていた。

 

 

美来も危険な目に遭わせてしまったことを怜人に謝るが、彼は別段怒った様子もなく

「他に誰も怪我しなくてよかー」

と言おうとしたのに、3人はさっさと目的の人物のところへ向かい始めていた。
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絵理沙の同僚だった女性に案内されて、絵理沙が使っていた部屋を見せてもらった。

 

中は徹底的に荒らされていた。

 

書類やファイル、データディスクなどあちこちに散乱していて、何かを探そうとして荒らしたのは明らかだった。

 

「数年前に突然彼女は姿を消し、それからしばらくして何者かが侵入したんです。

研究データもほとんどなくなっていましたが、何が目的だったのかは分かりません」

 

「そんな・・・」
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そう言う同僚の女性の言葉に、怜人は恐怖や残念さ、心配がない混ぜになったような何とも言えない疲労感を覚えた。

 

 

絵理沙が失踪した理由に心当たりはないか訊ねるが、芳しい情報は得られなかった。

 

ここで研究していた頃の絵理沙は、決して恵まれていない設備や予算からでも着実に研究を進め、生来の明るさで同僚の評判もよく、人間関係にトラブルを抱えていた様子はなかったらしい。

 

しかし、ただ一つ怜人を驚かせる事実が分かった。

 

「彼女の研究テーマは?」と怜人が訊くと

「MKウイルスです」と答えられたのだ。
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美来の話では、MKウイルスの研究は世界中で行われており、AIや女性研究者の多くが取り組んでいるテーマらしく、この世界状況ではそれは至極当然と言えた。

 

では、なぜ絵理沙の部屋だけこんなに荒らされているのか?

 

それは、どう考えてもMKウイルスの研究で何かしらの成果があったからに違いない。

 

怜人が散らばった資料に目を通していると、一葉の懐かしい写真に目が留まった。

 

犬のジロと一緒に写っている怜人と絵理沙の写真だった。
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