すっかり元気がなくなってぐったりしているジロ。
「うう・・・ジロぉ・・・」
ぐすぐすと涙を流してジロの背中を撫でている幼い絵理沙。
そこに
「絵理沙!」
と大きな声で彼女の名を呼びながら、怜人が駆け込んできた。
「ジロの病院見つかった?」と訊くのに対し、彼女は黙って首を横に振るだけ。
そっか、珍しい病気なんだってな、彼が続けると、
珍しい病気の薬作ったって儲からないし、それに犬だし・・・誰も研究してないんだって、と彼女は希望のない世の中の仕組みにうんざりしていた。
それでも彼は励まそうと声をかけたその時、彼女は急に立ち上がって「決めた」と言う。
「私、医者になる。研究医っていうの?ジロの病気を治す方法は私が見つける」
絵理沙は前を見据えてそう言った。それに怜人は
「そんなの、俺たちまだ子供なのに何年かかると・・・」
そう言おうとするのを遮って、絵理沙はこうも言った。
「でも、誰もやらないなら、自分でやるしかないでしょ?」
怜人は、幼馴染みのまだ小さな女の子が眩しく見えた。
怜人はその眩しさから目を逸らさないため、そして大好きな子のために決意した。
そんなカッコいい台詞は鼻水拭いてから言えよな、と茶化してから、彼女に告げた。
「俺もなるよ。俺も医者になる」
将来働く気はないって言ってたじゃん?と言われても、もう決意は揺るがなかった。
「だって、一人より二人の方がジロを治す方法の見つかる確立が高いだろ?」と答えた。
その答えに絵理沙は、ペンダントを受け取った時と同じ笑顔で「うん」と返した。
写真を見てその時の思い出と決意を思い出した怜人は、美来に訊いた。
「俺が好きな人のためにメイティングを拒むの、自分勝手だと思いますか?」
「・・・私はその質問にお答えする立場にありません」
答えをはぐらかされたが、怜人はそれ以上追及しなかった。代わりに別の質問をぶつけた。
「今、コールドスリープについている男性は世界で何人いますか?」
「正確には分かりませんが、およそ100万~500万人と言われています」
その数字を聞いた怜人は、再び決意した。
自分が必死でメイティングしても、一年で100人子供を作れるかどうか。
でも、今世界中で眠っている男性が活動できるようになれば、世界は元に戻るかもしれない。
何を言い出すのかと思い、美来は
「水原様?」と声をかけた。
彼は決意を彼女に伝えた。
「周防さん。俺がMKウイルスの特効薬を作ります」
考察・感想
むざむざ怜人に怪我させた理由がよく分からないが、翠が耳につけているヘッドホンみたいなものに、強さなりボディガードモードになる秘密がありそうだ。
絵理沙の部屋が荒らされたのも、MKウイルスが人工的に作られたものである可能性さえ、外部に漏らされるのはまずいと考えた何者かの仕業だろう。
それはウイルスの開発者なのか、それとも今の世界に満足しているだけの誰かなのか。
とにかく研究の成果を確認、または盗み見ることのできる人物の可能性が高くなるので、熊を解き放った犯人と同一犯だろう。
つまり、同僚かUW関係者辺りか。